皆さん、こんにちは。
多額の営業赤字を計上し苦境に陥っているとされる楽天モバイル。
前回は、その原因の一つとして、設備投資に対する見通しの甘さを指摘しました。
今回はもう一つの原因から書き進めたいと思います。
前回記事はこちら
ARPU向上が難しい料金構造
楽天モバイルが苦しんでいるもう一つの原因は、ARPU向上が極めて難しい料金構造です。
ARPUとは、Average Revenue Per Userの略で、顧客当たり月額平均単価のことです。
厳密に言うと、最近は1人のユーザーが複数のスマホを持つことも多くなっていますので、ARPUは端末1台当たり単価を表し、1ユーザー(1アカウント)当たりの単価はARPA(Average Revenue Per Account)と言ったりもします。
ドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの3社のARPUは、おおむね4,000円程度であるのに対し、楽天モバイルは約1,500円と3事業者の半額以下となっています。
このようにARPUが低くなっている原因を整理したものが、次の図です。
ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3事業者はユーザーのニーズに応じて、料金の安いサブブランドを用意し、自社系サービスからの流出を食い止めています。
これに対し、楽天モバイルは他社のメインブランドに相当するものがなく、格安のサブブランドに相当するプランの一本鎗で戦っているため、そもそもARPUは高くなりようがありません。
また、楽天モバイルは「わかりやすいワンプラン」を売りにしています。
一般に3事業者は、新しい料金プランを作った場合、従来の料金プランは残したまま新規申込み停止にして、併存させています。
実は多くのユーザーは、新たに安い料金プランができたとしても、変更が面倒臭いなどの理由で、従来の高いプランを使い続けているのが実態なのです。
これにより3事業者では数多くの料金プランが併存することとなり、「分かりにくい」という批判を浴びるわけですが、事業者側にとってはこの仕組みにより、安い料金プランを出した場合でも、それがダイレクトに収益減に響かないことになるわけです。
これはメインブランドに対して格安のサブブランドを作った場合も同じです。
しかしながら楽天モバイルは「ワンプラン」を売りにしているため、料金値下げを行った場合には、全ユーザーの料金が自動的に改訂されることとなり、収益にダイレクトに影響することとなります。
お客様に寄り添ったサービス性であり素晴らしいと思うものの、あまりにも「収益性」という自分の首を絞めすぎているように思えてなりません。
楽天モバイルの事業譲渡はあり得るか
このような楽天モバイルの実情を踏まえ、ネット上では、KDDIやソフトバンクに事業を売却すべきだといった意見も出ているようです。
しかし私は事業譲渡は考えにくいと思います。
2012年10月、ソフトバンクはイー・アクセスという通信事業者を買収しました。
イー・アクセスはイー・モバイルというブランドで携帯電話事業を行っており、これが現在のY!mobileとなっているのです。
イー・モバイルに割り当てられた1.7GHz帯と700MHz帯の周波数はソフトバンク系の有するものとなり、この買収によって市場の公正競争が阻害されたとして、総務省で問題になったとされています。
通信事業は国の基幹インフラを担う事業として免許制がとられており、参入には厳正な審査が行われます。
うまく行かないからといって簡単に撤退することは認められません。
楽天モバイルとて、そのことは十分承知の上で参入してきたはずであり、たとえいばらの道であってもやり抜く覚悟で進めていく以外にないと思います。
楽天モバイルが苦境を脱する道は
楽天モバイルの立ち上げには苦しんでいますが、楽天グループには豊富な事業アセットがあります。
日本最大のEコマース事業(楽天市場)の他、銀行、証券、文化、レジャー、スポーツ事業など。
これらを総称して「楽天経済圏」と言っていますが、楽天モバイルはこれら経済圏サービスをユーザーがスマートフォン一つで自在に操れる世界を目指して立ち上げたものと認識しています。
だとすれば、ユーザーが楽天モバイルを使うことで経済圏サービスをより便利に利用できることをもっと訴求し、ユーザー数の拡大と付加価値ARPUの向上を目指す以外にないのではないでしょうか。
いばらの道は当初より覚悟していたものであったはずです。
冒頭にも述べたとおり、新規事業者の参入により競争環境が活性化することで、イノベーションがより進むことは、外ならぬ電気通信市場ですでに立証されています。
自社で開発した仮想化技術を海外に売り込む楽天シンフォニーの取り組みなどは、慎重な3事業者にはなかなかできないアグレッシブな動きだと思います。
また「プラチナバンド」と呼ばれる伝搬性の良い700MHz帯の再割り当ても方向性が決まり、今後はエリア整備も加速度的に進んでいくものと思われます。
当面の困難を、グループ全体の財務力を駆使して乗り切れば、かなり展望は開けることとなり、そうなれば経済圏サービスで3事業者を凌駕する楽天モバイルの存在感は大きく高まるものと期待できます。
まずは今年度の単年度黒字化を目指す、楽天モバイルの反転攻勢を注視したいと思います。
それでは今回はこの辺で。
宜しくお願い致します。
Commenti